古い話で申し訳ないが、もともと僕は大好きだった6ボタン格闘ゲームの開発に携わることが嬉しくて大学卒業後そういうゲームの開発会社に入社し
たんだけど、2年目以降はそういう開発の作業があまり回ってこずに、なぜかアドベンチャーゲームなどのプログラムが多かった。クリスマスなんかにいろんな
大作に混ざって並ぶ自分の関わったギャルゲーを彼女に見せて「これ!俺が作ったんだぜ!」って自慢した時に、ゲームのことをぜんぜん知らない彼女はまず驚
いてくれる。
「へー!すごい!この女の子すごくかわいいね?」
「そうだね、それは有名なハンコ絵師が納期の2ヶ月後に描いた絵なんだよ」
「あ、このシナリオいいね!ジーンときた」
「あ、それは、納期を3ヶ月も遅れて提出してきたガモウさんのシナリオなんだ」
「この演出泣けるね、これは富雄くんが作ったん?」
「いや違うんだ、スクリプターが精魂込めて記述したんだよ」
「うわーこの音楽いいね」
「・・・・・(僕が音楽まったくできないことを知ってるのであえて説明しない)」
「じゃあ富雄くんは何を作ったん?」
「・・・・・ほら、ポーズボタン押したらメニューが出るでしょ?もっかい押したら閉じるやつ」
「・・・フーーン、あ、これね(彼女がパカパカやってる)」
「・・・あとほら、ガモウさんの描いたシナリオが文字になって画面に出るでしょ、それも僕!」
「あ、これってシナリオ書いたら出てくるものじゃないんだ、フーーン」
「・・・あ、あといっぱいバグ取ったよ」
「・・・ヘーーー」
「・・・・・」
「・・・・・・・・」
プ
ログラマっていうのは目立たない時は本当に目立たない。マイコンベーシックマガジンに書いてあった「目指せ!スタープログラマー」っていうフレーズが耳に
痛い。僕がスタープログラマーじゃないから目立たないのか、いやでも、先輩は間違いなくスタープログラマーだけど、スクリプトエンジンとかドリームキャス
トのレンダラーを作ったこととか秒間20000枚のポリゴン描画の凄さを彼女にどうやって自慢するんだろうか!?
聞いてみたら、彼女いなかった。
話を元に戻そう。
こ ういういきさつで、ナウローダーの石橋くんの「自慢できない仕事を積極的にこなして早く家に帰る」っていうスタンスがどうにももどかしかった。彼は家に早く帰ってシュー ティングをする。帰りにゲームセンターによってシューティングをする。時間があればシューティングを作る。関東にはゲーセンがいっぱいある、だから横浜に 来た。そういう人間だ。とにかくゲームで遊ぶのが大好きな男だった。しかしプログラマとしての知識や技術は決して潤沢ではなく、シューティングゲームを作 る技術もプログラマとしても10年前から実はあまり進化してない。それでも彼の創り出すシューティングやゲームは毎度僕の作るものよりも奥が深くて純粋に 面白い。同人ソフトとして販売している経緯からも「売る」ということに関して僕より常に一歩先に行っていた。
僕もゲーム好きとして少年時代はもとより、高校時代も青春時代=暗黒時代として過ごしたものである。周りの誰よりもゲームに詳しかったし、そこに加えてプログラムをたしなんでいることも驚かれたし、世の中Windows95になろうかというときにもずっとMSX-BASICから離れられずに雑誌に投稿し続けていること
も驚かれた。しかしこの石橋という男とはゲーム好きのレベルが違った。詳しさも愛情もそして何よりその分析や洞察力といったゲーム作りの野生の勘も嗅覚も
全てが僕よりも優れていた。
僕と彼とはゲーム観や趣味について「ほぼ」同じ趣向を持ち合わせていた。だからその話の大部分は共感できるものだらけなのだが、細部に至っては当然一番好きなゲームタイトルを含めて異なる。その他、技法の解釈やゲームとしてのあり方については似ているけれども「全く同じ」ではないことから議論に発展して、理解しあえず「2人は考えがあわない」という難しい問題を常に抱えていた。具体的にいえば彼はシューティングが好きで、僕はアクションシューティングが好きだ、という違いである。ちょっとしか違わないけど、ドラゴンスピリットとメタ
ルスラッグは全然違う。
そこが仕事観に関してもプログラマとして「ナウローディング」を専業とすることのカッコ悪さと、
「ナウローディング」で何が悪い?という考え方の違いから、なかなかあいいれることができなかった。僕は3つの仕事を終わらせるため連日終電ペースで作業
を進めないと終われないくらいの作業量になっているのをなんとかこなしていて、彼は19:00くらいに仕事を終わらせてゲームセンターに行くのを恨めしく
思っていたものである。その分、僕の方がオバキューのためになっていること、プロジェクトから稼いだ僕の信用は確実に彼よりも大きいという自信もあった。
しかし、しかしである、この立場が大きく逆転することになる説明が今回もできなかったね。
次回に続きます。