UnrealEngine4研究所

UnrealEngine4の研究/開発をしてます。ガルルソフトウェア研究所です。

2015年11月

ナウローディングのプログラマー2

古い話で申し訳ないが、もともと僕は大好きだった6ボタン格闘ゲームの開発に携わることが嬉しくて大学卒業後そういうゲームの開発会社に入社し たんだけど、2年目以降はそういう開発の作業があまり回ってこずに、なぜかアドベンチャーゲームなどのプログラムが多かった。クリスマスなんかにいろんな 大作に混ざって並ぶ自分の関わったギャルゲーを彼女に見せて「これ!俺が作ったんだぜ!」って自慢した時に、ゲームのことをぜんぜん知らない彼女はまず驚 いてくれる。

「へー!すごい!この女の子すごくかわいいね?」 
「そうだね、それは有名なハンコ絵師が納期の2ヶ月後に描いた絵なんだよ」

「あ、このシナリオいいね!ジーンときた」
「あ、それは、納期を3ヶ月も遅れて提出してきたガモウさんのシナリオなんだ」

「この演出泣けるね、これは富雄くんが作ったん?」
「いや違うんだ、スクリプターが精魂込めて記述したんだよ」

「うわーこの音楽いいね」
「・・・・・(僕が音楽まったくできないことを知ってるのであえて説明しない)」

「じゃあ富雄くんは何を作ったん?」
「・・・・・ほら、ポーズボタン押したらメニューが出るでしょ?もっかい押したら閉じるやつ」

「・・・フーーン、あ、これね(彼女がパカパカやってる)」

「・・・あとほら、ガモウさんの描いたシナリオが文字になって画面に出るでしょ、それも僕!」
「あ、これってシナリオ書いたら出てくるものじゃないんだ、フーーン」

「・・・あ、あといっぱいバグ取ったよ」
「・・・ヘーーー」

「・・・・・」
「・・・・・・・・」

プ ログラマっていうのは目立たない時は本当に目立たない。マイコンベーシックマガジンに書いてあった「目指せ!スタープログラマー」っていうフレーズが耳に 痛い。僕がスタープログラマーじゃないから目立たないのか、いやでも、先輩は間違いなくスタープログラマーだけど、スクリプトエンジンとかドリームキャス トのレンダラーを作ったこととか秒間20000枚のポリゴン描画の凄さを彼女にどうやって自慢するんだろうか!?

聞いてみたら、彼女いなかった。

話を元に戻そう。

こ ういういきさつで、ナウローダーの石橋くんの「自慢できない仕事を積極的にこなして早く家に帰る」っていうスタンスがどうにももどかしかった。彼は家に早く帰ってシュー ティングをする。帰りにゲームセンターによってシューティングをする。時間があればシューティングを作る。関東にはゲーセンがいっぱいある、だから横浜に 来た。そういう人間だ。とにかくゲームで遊ぶのが大好きな男だった。しかしプログラマとしての知識や技術は決して潤沢ではなく、シューティングゲームを作 る技術もプログラマとしても10年前から実はあまり進化してない。それでも彼の創り出すシューティングやゲームは毎度僕の作るものよりも奥が深くて純粋に 面白い。同人ソフトとして販売している経緯からも「売る」ということに関して僕より常に一歩先に行っていた。

僕もゲーム好きとして少年時代はもとより、高校時代も青春時代=暗黒時代として過ごしたものである。周りの誰よりもゲームに詳しかったし、そこに加えてプログラムをたしなんでいることも驚かれたし、世の中Windows95になろうかというときにもずっとMSX-BASICから離れられずに雑誌に投稿し続けていること も驚かれた。しかしこの石橋という男とはゲーム好きのレベルが違った。詳しさも愛情もそして何よりその分析や洞察力といったゲーム作りの野生の勘も嗅覚も 全てが僕よりも優れていた。

僕と彼とはゲーム観や趣味について「ほぼ」同じ趣向を持ち合わせていた。だからその話の大部分は共感できるものだらけなのだが、細部に至っては当然一番好きなゲームタイトルを含めて異なる。その他、技法の解釈やゲームとしてのあり方については似ているけれども「全く同じ」ではないことから議論に発展して、理解しあえず「2人は考えがあわない」という難しい問題を常に抱えていた。具体的にいえば彼はシューティングが好きで、僕はアクションシューティングが好きだ、という違いである。ちょっとしか違わないけど、ドラゴンスピリットとメタ ルスラッグは全然違う。

そこが仕事観に関してもプログラマとして「ナウローディング」を専業とすることのカッコ悪さと、 「ナウローディング」で何が悪い?という考え方の違いから、なかなかあいいれることができなかった。僕は3つの仕事を終わらせるため連日終電ペースで作業 を進めないと終われないくらいの作業量になっているのをなんとかこなしていて、彼は19:00くらいに仕事を終わらせてゲームセンターに行くのを恨めしく 思っていたものである。その分、僕の方がオバキューのためになっていること、プロジェクトから稼いだ僕の信用は確実に彼よりも大きいという自信もあった。

しかし、しかしである、この立場が大きく逆転することになる説明が今回もできなかったね。
次回に続きます。

ナウローディングを作るプログラマー

さて、横浜でワークスに出向にいった僕だったが、

仕事の内容はマルチプラットフォームで展開されるスポーツゲームの開発で毎年続編が出る。昨年まではシステムクラスタの社員が横浜に出向して請け負っていた。なかなか評判が良かったこの社員は僕の後輩で、彼の名誉のためにもその後を継いだクラスタの先輩としては、必要以上に燃えていた。実は僕のシステムクラスタ時代には僕のあとになかなか新入社員が入ってこなかったこともあって、長らく僕は新入社員だったんだけど、4年後くらいに入ってきた彼は僕にとって目に入れても痛くないことはないけど我慢できるくらい可愛い後輩でもあった。だから恥もかきたくないし、かかせたくもなかった。

そう思って始めた関東での仕事は色々苦労した。今考えると関西との大きな違いは「信用」だった。関西だとよっぽどの風体でない限りは、たいていどんな奴でも信用してもらえたし、どんな奴が来てもなんとなく信用していた。残念ながら関東ではそれを実感することはできず地道に信用を高めることを余儀なくされた。大きな会社に行けばどこもそうなのかもしれない。考えても見れば当たり前のことで、できるかどうかわからないやつに一か八かのかけをふっかけるやつもいない。ただ、関西だと一か八かのかけができるのか、というとそうでもないのだが、2か4かくらいの賭けにでるようなチャンスは割とたくさん転がっていた。おかげでワークス関西ではうまく仕事を終えることができワークス関西の開発員や社長とは奇妙な信頼関係ができ僕の結婚式にも参加してもらう間柄になった。

横浜のワークスでは、スポーツゲームの開発だけで総勢100名(※)を越す大きな開発だったが、できるだけ多くの仕事をこなして信用を稼ぐことに躍起になっていた僕は、頼まれる仕事をできる限り調子のいい顔と声で、どんどん受けていた。対して僕の横で一緒に出向に来たオバキューの石橋くんは、1年かけてナウローディングを主体に比較的ゆるい仕事を定時(19:00)であがれる程度にこなしていた。

僕はもうこれが歯がゆくてしょうがなかった。せっかく一緒にたちあげたオバキューの信用を高めて自分たちの報酬を上げていくためのチャンスなのに「なんでこんな一生懸命じゃないんだろう!?」と思っていた。確かに、今一生懸命仕事を積んで毎日22:00まで残ってやらなければいけない仕事をやったからといって彼の手取りが25万から30万に上るわけじゃない。この仕事は毎月の報酬を会社が55万円で請け負っていて、各自の給与はそこから総額35万円に設定されているからだ。もちろん増額することもできるが、残った金額を法人税に費やし、貯金を貯めて「自社タイトルを作る」ためには、ワークスからの売り上げが上がらないことには計画が遠ざかってしまうことになる。

つまり、月額の売り上げが55万から60万に上げることができたのなら、給与としても5万増額する余裕が出てくるのであるが、金を生み出さない社員を一人雇うと、月額18万の金城くんの給与でも意外に余裕がない。まあもっとも、これは経営者側の都合であって、彼の都合には関係がない。関係あるとしたら「自社タイトルを作る」という夢をどこまで一緒に見られるか、そのためにワークスの信用をどれだけ短期間に得られるか?このパワーに尽きる。それなのに35歳になろうかという僕よりプログラマ暦の長いプロフェッショナルが「ナウローディング」を作る。まったく自慢できない開発作業をある意味情けなく思ったこともある。

だが、しかし。
だが、しかし、このプロジェクトが末期に至った時、仕事上の立場は完全に逆転する。

(続く)



※初めて「コンピューターの検索」が必要であることを知った。たくさんPCがありすぎると検索しないと見つけるのが難しい。そんなにたくさんのPCが稼働している現場が初めてだった。
 

ソーサリアン for iOS

病院は暇だ。ゼロノスのマスター提出が10月20日。会長とPが病院に走ってきて解雇を通告しに来たのが10月21日。2週間ほどの入院の予定が2ヶ月位にのびて気持ちも萎えまくっている今日このごろ。

とにかく忙しかった5年の間に積みに積みまくったゲームを消化していくいいチャンスだと思った。いま世の中はPS4だけど、仕事が忙しくなった20年前からの積みゲーを消化していこう。いややっぱりやめた。無理だ。この20年の間になんとかクリアしたゲームは

・ナムコxカプコン
・メトロイドピンボール
・ゼルダの伝説

だけだった。話題になってたマリオカート7とかもやってないな、あ、買ってもないわ。そんな中いつかやろうと思っていた「ソーサリアン for iOS by Aeria」
これなら入院生活でもできる。

正直2500円で登場したAeria版ソーサリアンは出た当初からその価格と操作性の悪さに2chの掲示板は荒れていた。そこに含まれる課金コンテンツもなにか死者を冒涜するような「有料の復活」が神経を逆なでしたのか、課金コンテンツとしての評価は良くなかった。むしろ嫌われていた。

しかし、当時のそんな状況を横目にしつつも今あらためてバグもとっくにフィックスされたであろうソーサリアンをプレイしてみると、これはWindows版で販売された「ソーサリアンオリジナル」の移植版としては申し分のないできだ。ただ当時のアプリとしての2500円は高すぎたが。しかし僕はもともと無料で買ったんだったか、300円で買ったんだか忘れたけれどもセールで買って、そして「消えた王様の杖」であっさり全滅したあと無償で復活させてくれるあたりも含めて、そんなにケチなアプリではない。

操作性の悪さはスマホである限り目をつぶらざるをえないが、そこは買う側がわかってあげようよ。
iOSでソーサリアンが遊べることを評価すべきであって「消えた王様の杖」をクリアさせるところまではギリギリ耐えられる順当な操作性である。

僕としてはスマホで遊びやすいソーサリアンが欲しかったのだけれども、むしろソーサリアンそのものよりも、ソーサリアンのエッセンスを楽しみたかったに違いない。今、王様の杖をクリアして「暗き沼の魔法使い」でガマガエルを天に返したあとわかった。この労力の1/15くらいで楽しみたかった。

でもそれは移植では難しい話で、下手なアレンジや、敵の弱体化とか、MAPや基本システムを変更すればますます古参プレイヤーから叩かれるし評価がさがる。これは経験上知ってる。昔からのプレイヤーはなぜか上から目線で「こうでなくっちゃ」と言わんばかりに細かいことに口うるさい。
言ってみれば、レストランでウェイターに偉そうにする人に近い。

「こんなソーサリアン、タダでも(ちょっとしか)遊べねえよ、
 俺の(ソーサリアンではなく若いころの自分と愛機PC88の)思い出を返せ」

難しい。この気持に応えるのは実に難しい、リバイバルとかリメイクとか、リビルドていうのはこういう自分勝手な思い込みを美化する風潮を無視できる豪胆さが必要かもしれない。過去、レトロゲームをリメイクする際、版元さんはこういった。

 「古参プレイヤーには何を作っても叩かれる」
 「新しい人向けに過去に縛られない新しいコンテンツとして提供する」

言い得て妙である。ソーサリアンをこのiOSで出してくれたAeria版に文句を言いまくるから新作も出なければ追加シナリオも出ない。特にコアな人はこういう。

 「下手なリメイク出されるくらいなら出ないほうがマシだ」

この意見は僕にとっては迷惑だ。下手なリメイクでも面白ければ僕は遊びたいし、新作も出てほしい。ダメだったら黒歴史に刻んで、それを肴に盛り上がるのも悪く無い。もう一度言うがAeriaのソーサリアンは「よく出来てる」あ、はじめて言ったか。ただ、ソーサリアン好きとしては残念な気持ちは共感できるが、それはAeriaのせいじゃない。

僕の心の思い出が実物以上に美しすぎただけなんです。

ブレイブリーゲート(ブレゲーって略すんですって)

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今をときめくサイバーエージェント様のローグライク。

本当にお金をかけてパズドラの売れてる要素を限りなくトレースして作られたローグライクに見えます。
かくいう私もソフト屋の代表取締役時代に、パズドラシステム+パズルとか、パズドラシステム+ドラクエ戦闘したものを作らせてきた張本人なので、パズドラシステム+ローグライクで基本コンセプトのあさましさにあれこれ言う資格などない。

僕自身はパズドラをそんなにプレイしていなかったので、あまりその仕組を理解していなかったんだけど、しかし、やってみておどろいた。うちの作ってた商品とブレゲーはシステムがクリソツじゃないか!パクリか!?あ、違う、僕達がパズドラをパクったから、他のパズドラリスペクト製品と似てるだけなんだ。

僕らもがんばってリスペクトしたし、クライアントさんとの二人三脚で頑張ってきたけど結局クライアントさんを大儲けさせてあげることはできなかった。単純に言うと開発費だけもらってうまく稼がせてあげられなかった。しかしこのブレイブリーゲートをそういうソフト屋の観点ではなくプレイヤーとして見て僕らのソフトが圧倒的に欠けている点に気づいた。

かけているお金の量が違うこともさることながら、カードやガチャなどの当たり前の要素に加えて儲かる(らしい)すべての(誰かが考えた)要素をぎゅうぎゅうに詰め込みました、っていう言ってみればよくあるアレである。
ゲームのUIやエフェクトなど、必要以上にきらびやかな演出は、いたるところでお金の香りの香水がプンプン匂う。もうこれはアレだな、夜の街とかパチスロのきらびやかさに近い。そう考えれば広告や目を引くきらびやかさに「やり過ぎ」はないのかもしれない(※)

ようするに「いやらしいくらい稼ぐことに貪欲」なソフトなのである。

僕らが負けていたのはここだった。
根がゲーマーな奴ら(僕ら)が稼ぐことに貪欲になりきれず、ゲームとしての美学や歴史に準じてわきまえたゲーム性とストイックな姿勢でそこそこのカンパを求めていたところに「さあ、今からがっぽり稼ぐぜ!」っていう別次元から現れたプレデターとは稼ぐことに対する姿勢が違う。

同じパズドラリスペクトでも、徹底的に研究してやり尽くして、パズドラライクなんてものじゃなく「それ以上」を本気で狙っている姿勢に完全に負けていた。

どうせマネッコするんならここまでやらないとダメだった。しかし悔しい。ゲームの美学を無視して稼ぐことに貪欲なソフトに負けることが悔しい!

本気で貢がせるつもりのホストと恋愛に純真でストイックな男子のどっちがかっこいいか、というと、僕は後者だけれども、どっちが女の子に貢がせることができるかというと前者である。そして貢がせた分の見返りは、そのお金をかけたであろう豪華な演出で一生懸命にプレイヤーに還元している。同じ100円でも、レアキャラを引いた時の気持ちよさは、僕らの作ったゲームと比べてもブレイブリーゲートの方が5倍は豪華だ。

ゲームの話に戻そう。
しかし残念ながらこの「ブレイブリーゲート」はローグライクなのに全然ローグライクらしくない。システムはローグライクなのに。ローグっぽくないのである。

クローズドβテストでも「こんなのローグじゃない」といった意見が出ていたらしいが、そもそもローグらしさて何?ということになると話が難しい。しかし、どうも本人たちもそう思っていたらしく改善できる点を昇華して本作品に必要のない要素を男らしくオミットした結果なのでしょう。

http://gamebiz.jp/?p=146305

悪くないけど、ローグ特有の戦略性がいまいち感じられなくて。
近づいてバシュ、近づいてバシュっと切り進む感じはなんかゼルダの伝説っぽくもあり、もはやアクションに近い。後半になればもっとローグライクしてくれるのかもしれないが、そこまで保つ自信がない。

そう思ってた矢先に「スーパー激レア」キャラが当たる。
うまいねえ。こういうところが本当にうまい。こういう香水の匂いがプンプンするゲームは苦手なところで、iPhoneで遊べる香水の匂いのしない、とても優秀なローグライクを紹介します。

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・Rougue Ninja・・・http://www.appbank.net/2012/04/06/iphone-application/393492.php
・Alchemy Dungeon・・・http://app.famitsu.com/20150713_543471/
・お宝ダンジョン・・・http://iphoneac-blog.com/archives/3143869.html

むむうう、地味だ。地味だがこっちのほうが好きだ。素直に面白い。これでローグにはまって、もっと派手でカジュアルなローグを求めてブレゲーに行き着いた結果、なぜか原点に回帰してしまう無限ループである。

ブレイブは「ローグライク」に似た、ローグライクライクといえる。そこを許せるか、許せないかが楽しめるシキイになるのでしょう。とはいえ、入院中はひまなので今日もとりあえず「連続ログインボーナス」に縛られて1プレイしてしまう。こういうところは本当にうまいんだけど、どうしても作業になってやらされている感は否めない。

そして、僕達がストイックな姿勢で楽しませることができたユーザー数とブレイブリーゲートを比べても、きっと絶対数は圧倒的にブレイブリーゲートの方が多いはずで、どれだけ楽しませたか?という本質においても、いきさつや理念がどうあれ、結果、楽しませたものが多いほうが勝ち、という娯楽の世界においても本質をついているといわざるを得ないとても上手な作り方に頭が下がります。

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というネタを書いてから1週間後の11/4にショッキングなニュースが走る。

「サービス終了のお知らせ」

え!

2015年4月から配信していたらしい。まだ半年じゃないか!
スマホゲーは売れる見込みが無いとわかれば撤退も早い。サーバー維持費などの保守料金と毎週のように行われるバージョンアップにかさむ費用をバッサリ切ることがその理由である。ブレゲーは残念ながら「これは失敗」という見切りをつけられてしまっている。

それなりに広告をうったものはユーザーの絶対数が多いからサーバーそのものも高スペックを要求され維持費も高くなりがちである。それだけのユーザーがいても、基本無料のF2Pアプリが毎月黒字に転じないというのは課金コンテンツがうまく回っていないことが理由なのだと思いますが、難しいね。

多くの開発費をかけたであろうきらびやかな演出でユーザーにアピールし、
いたるところに呼び込みのメッセージやアイコンを配置し、
これでもかといわんばかりに稼ぐことに貪欲な異世界のプレデターがこんなに早期に撤退するとは。

やはり金の匂いがプンプンするところは問題があるんじゃなかろうか。
そして美学を感じないところに品の無さを感じ取るんじゃなかろうか。
パズドラライクライク、ローグライクライク、なライクライクソフトは
「課金の呼びこみ以外は中途半端なソフト」というイメージだった。

「あとこれで面白ければ!!」

似たような作りでも、モンストは圧倒的にその金の匂いがしない、というかなんだろう、それ以前にプレイしていて純粋に楽しかったし、課金コンテンツが気にならなかった。自社のソフトにすら自分の金で課金することを半年ためらった超ドケチな僕が、課金コンテンツをみずから探しに行ったほどである。

僕は僕達の作ったソフトが負けているであろうことを前提に話を進めてきたが、どうやらそうでもないらしい。少なくともうちのソフトは細々とやってきたこともあり1年は運営を続けられたし、それを支えてくれたユーザーさんの努力と課金を無駄にしないために、通信料を控えたスタンドアロン版につくりかえ、課金したコンテンツは永久に機能するようにして活動を終えた。

もちろん、これはクライアントの賛同と意向があってのことで、そのための開発費ももらった。ユーザーを大事にするクライアントさんには本当に頭がさがる。ある意味コンシューマーゲームを作ってきたクライアントさんだからこそできるゲームの美学とお客さんに対する敬意の表れといっちゃう。
ローグライクライクとして楽しませてくれたブレゲーには悪いが、いやらしいくらいに稼ぐことに貪欲なソフトのやり方が常勝の方程式でなかったことに、ゲーム業界の自浄作用を感じて少し胸をなでおろした。

ありがとうブレゲー。楽しませてもらいました。やらされ感はあったにせよ最低1日1回はプレイしていたのに無料なのに文句を言ってる僕をお許し下さい。安らかに眠れ。


※そう考えれば広告や目を引くきらびやかさに「やり過ぎ」はないのかもしれない

 → そうでもなかった

金城くんがうつ病になった

色々あったが3年たった。大体手元には300万ほど残っている。
少ないながらもいよいよコンシューマーでのゲーム開発を始めようかという時だったが一緒に始めた仲間はだいたい2年おきに転職する人だったこともあり、きっちり2年目にいなくなった。

でもおかげで溜まった貯金が約350万。

あれ?1000万を目指してなかったっけ?

そうなんです。もともとはその予定だったんだけど、途中でプランナーが合流することになりました。
もともと、このプランナーとは初年度から一緒に活動を始める予定だったのだけれども、直前に急に連絡が取れなくなって合流を断念した。

1年後に連絡がつくようになって、きいた言い訳は「警察に捕まっていた」という。その後は、彼の父親がガンになり闘病生活を補助する必要から金策に走って、ついに僕を頼ってきた、と、そういう流れだった。

それだけでもう、今考えるとうさんくささがプンプンする男なのだが彼と僕の関係は、僕が前職のシステムクラスタの新入社員で彼がバイトとして入社してきた時から始まって、もう10年くらい一緒に仕事をしている仲だった。

最初は6ボタンの対戦格闘ゲームのチェッカーのバイトとして応募してきたのがきっかけで、当時社内で一番うまいとされていた僕を倒すことが採用される条件だったんだけど、僕はあっさり倒されて彼は採用された。その後は、一緒に仕事をするうちに非常に責任感のある男ということがわかってきて、僕のミスや忙しい時のフォローなどは彼に任せて僕はプログラムの仕事を進められるようになっていたし、安心して背中を任せられる彼となら僕の作業効率はは2.5倍増しになる気がしていた。

そんな彼だったので、前置きはさておいても、一緒に仕事できることの嬉しさに「やりなおそうぜ!」って大物ぶって迎え入れたうえに、彼のお父さんの治療費を60万円分貸した(実際に貸したのは会社だが)

その後、合流することで月間18万円の激安プランナーとして活動してもらうことになったが、残念ながら僕はすでに出向の身だったので、彼の仕事先を探すことが難しい。

出向させることができれば最も実入りが大きいのだが、何しろ経歴がバイトしかなく、とりあえずのとりえが「鉄拳」しかない彼をプランナーとして雇い入れてくれる場所はなく、それでも将来一緒にゲームを作ろうとおもうと、自社タイトルで彼をプランナーとして抜擢し1年で大成させる必要があった。

また、僕が未体験だった宣伝やショップへの営業といった活動も彼に任せることにして、自社でキャリアを積んだ実績を、将来の彼の経歴の足がかりにしようと考えた。彼の給与は神奈川のワークスから僕が稼いで、彼が自社タイトル「ガンラウンド」を創る。間接的に僕の抱いた夢のコンシューマソフトの第一歩をスタートさせた。


・・・・半年がたった


最初はものすごくいい滑り出しだったのだけれども、最近どうも、進捗が悪い。
言ったことができてない。おまけに避けるように僕の帰りを待たずに置き手紙だけで進捗を報告する。時間が合わず全くコミュニケーションが取れない。この時点で気づくべきだったが、やっぱり「一緒の場所で仕事をしない」というのは致命的だ。

いつSkypeで連絡してもその場で答えが帰ってくることはなく、20~30分後に「タバコを吸ってました」と帰ってくる。どうもおかしい。居眠りしてるんじゃないか?鉄拳しに外出してるんじゃないのか?など疑念が膨らむ。
業を煮やしたのは僕が取引先でさんざん叱られた日、おりしも給与が振り込まれる月末に彼の1ヶ月分の作業の成果を確認した時だった。

先月作った演出のXとYの値をひっくり返しただけのちゃちなものが提出されていて、2時間もあればできそうな内容を1ヶ月もかけたことに、どうしようもなく腹が立ってきた。
この出来損ないを半日かけてゲームに組み込むのも馬鹿らしいし、こんなちゃちなものに18万円もかけてしまった自分の愚かさに泣けてくる。しかし、一緒にいてこれではダメだと教えてあげる時間を取れるわけでもなく、彼の自主性だけでプランナーにしよう、という僕の皮算用にも問題があった。


次の日から作業はやめて、ものを売るための「営業」にでてもらうことにした。
やり方は全くわからないので、とりあえず近所のショップに片っ端から飛び込んでみて将来の自社の商品のアピールをしてきつつ仲の良い店員さんをつくる仕事だ。実際に販売になった時に1本でも多く関心を持ってもらうために、流通さんだけでなく、メーカーの営業がショップと仲良くなっていく大切さは、「イッポンマツ」ソフトウェアの社長(当時営業)が教えてくれた。

僕にも彼にもわからないことなら、彼のアイデアでなにか開拓することができるかもしれない。近所のショップに飛び込んでみて情報収集をすることをすりあわせて、具体的な方法は彼に任せた。彼のアイデアに僕はとても期待をしていたし、僕は手持ちの案件のマスターアップで大阪に出張しておりまったく管理できる時間を取れなかったこともあって、すべてを彼にまかせた。

結果に期待して1週間がたった。
そうすると、彼は


「河にそってショップを探してだいぶ歩きましたが、ショップらしきものが見つかりませんでした」という。


「?????」え?

「河にそって?」ってどういうことかわからない。
ショップってのは船か何かで送られて来たり、送ったりするメソポタミア文明的な何かなの?

「だいぶ歩いたんですけどねー」

苦労したらしい。
いちおう説明しておくと、2007年である。主力はXPだが、WindowsはVistaや2000が活躍していてスマホの黎明期ではあるがガラケーの中~末期で、もちろんネットだってある。ググってみればショップの情報などは、いくらでもでてくるし、近場に無ければ秋葉原が電車で30分のところにあるのだ。

もう愕然とした。こんなことに1ヶ月の1/4も使ってしまった。金額にして45000円。
なんだったんだ、この4万5千円は。。。エイジオブエンパイアなら川の周りの視界が広がって価値のある斥候になれただろう。でも、俺そんなのいらないし、誰も攻めてこないのに、なんで河をさかのぼって開拓する必要があるんだよ。調べろよ!調べて狙って、ショップに行ってこいよ!んで、どんな話が聞けたのか教えろよ!!
これなら嫁にうまい寿司でも腹いっぱい食べさせてあげたほうがよっぽどマシだった・・・・・!

超ガッカリした。

でも、それでも僕は彼を諦めきれずに、その無駄と、金と、自分がいかに苦労して彼の給与を稼いでいるのかと、ゲームを作るための必然性などをひたすら説いた。叩きこむと言ってもいい。おこがましいがこれぐらいダイレクトに言わないとダメだと思った。

彼の逃げようとする話の先に全部途中で引き返さざるをえないトラップを仕込んで話を聞いて、
彼の話の先に未来がないことを自ら悟らせ
引き返さし、
最終的に僕の話を受け入れることしか選択肢が残らないことを理解させ、
それ以外の道を全部塞いだ上で、
自ら僕の用意した道理を踏ませる。

僕は決して強要はしないが
情況証拠を小出しにすることで怯えさせ、
正論を固めて彼を誘導した。

そしてやっと本当に無駄な時間を過ごしてしまったことを後悔させる、彼自身も、自分の本当にやりたかったことから遠ざかっていることに激しく後悔していた。

そんなやりとりが1年半の間に4度、5度と繰り返されるうちに、彼の髪の毛は、なぜだか白髪交じりになってきた。彼は、本当に素直な人物なのである。しかし、驚くべき喉元の短さで、苦しかったことや後悔したことを
2日あれば忘れることが可能な人物でもあった。

それでも僕は彼を家族のように愛していたし、なんとか一緒に活動するに相応しいパートナーに育って欲しかった。真剣にゲームの事を考えて欲しかったから毎日のように真剣な討議をした。討議というのは僕にとって都合の良すぎる言葉かもしれない。毎日説教した。そして「自分に相応しいパートナーになれ」というのも極めて傲慢だったが何一つおこがましいとは思っていなかった僕は何か勘違いしていたのかもしれない。

そして彼がノラリクラリを始めると僕はやはり、すべての彼の言論の出口を塞いで彼の心の逃げるのを許さなかったし、小さなウソも見逃さずに徹底的に追求した。

そこで心を丸裸にさせて、彼の逃げようとした心や、隠そうとした真実を暴き出し、さらけださせて、糾弾した。

僕は真剣だったし、彼のいい加減さを直したかった。。加えて僕の言うのは正論だったから反論が難しい。今でも正論のどこが悪いかはわからないが、ただ相手を正論でガチガチに固めてしまうことで、相手は逃げ場をなくして最後は心が壊れてしまうことを今は知っている。

彼の場合は最後に「ウソつき」になった。

今日出来てなかった仕事は「明日までにやります!」といって、「今日はもういいから寝てから明日やりなよ」といっても、「いや1日でも早くやらないと申し訳なくて」といいながら家に帰っても、1%も次の日にやってこない。
理由を聞いたら考えているうちに寝てしまったのだという。1度や2度ではない。20回も30回もそれをやるうちに3ヶ月がすぎる。

遅刻してきて叱った後は、叱られた翌日とか、お客さんとの待ち合わせとか大事な日に限って「遅刻する」

その他は、これは退職後の話だが「借りた60万円は来月までに必ず返します」といって、約束の時間に来ない、
家を尋ねると居留守を使う。

最初は僕を「怒らそうとしているのかな?」とか「ピンチに陥れようとしてウソを付いているのかな?」と疑ったが、そもそもそういうやつではないし、そういう感じもしなかった。でも、なんとなくわかったのは、

理想の金城くんはとにかく良い返事をする。そして理想の回答に近づけるべくうっかり着手できないため、しっかり考える準備を始める、しかし、現実の金城くんは緊張が高まると寝てしまったり、遅刻してしまったり、課題をこなしてこなかったりと言い訳できない状態になる。そうなると、僕の「正論ガチガチ固め」で、こころが丸裸になって傷がつく、それを防衛しようとして、またいい返事をして緊張が高まる・・・・

なんかそんな風にみえた。

最後はひどいウソに呆れて嫁と二人がかりで会社から追い出した。真っ黒だった彼の髪の毛が白に近いグレーになっていたのが今でも記憶に残る。嫁は「毎日カップラーメンばっかり食べてたし。。。」と言ってくれるが、それもあるかもしれないが本質はきっと違う。僕がきっと彼の心を壊してしまったんだと思う。

少林寺をやっているセガの忍とか描いてたグラフィッカーが金城くんを見て

 「人を変えることはできないが、自分を変えることはできる」と、少林寺(※)の教えを教えてくれた。

 さすがセガ、話が深い。



でも、そのとおりだと思う。

どれだけ人の心を変えようとしても変えることはできなかった。
僕は2015年までに5人の心を壊してきたから今はわかります。


(※)全然関係なくて恐縮だけど、この元セガの友人に大切な言葉を残した少林寺の道場主は、負傷した弟子のために、その他の弟子からお金を集めてドロンした。もう何がなんだか・・・・・TT

1ヶ月に60万円を稼ぐ

そもそもゲームを作る時の人件費は一般的にはだいたいどれくらいの費用がかかるものなのだろうか。

プログラマーを1ヶ月雇うとだいたい約60万円かかる。
グラフィッカーでも60万円。プランナーでも60万円。みんなだいたい60万円くらいかかる。プログラマとグラフィッカーとプランナーをそれぞれ1人、合計3人のプロジェクトを半年間進めると、つまるところ800万円もの投資が必要になる。

このうち1ヶ月は準備に費やされる。
プラットフォームの研究調査、たとえばDirectXの下調べやPS4などの新しいプラットフォームの研究、プランナーで言えば、ゲームの仕様書策定や元になるゲームの調査という名目のゲームプレイを行う。最後には、デバッグに1ヶ月使うと実質のゲームの開発に使えるのは、実に4ヶ月。

つまり800万円のうち360万円はゲームの準備と保守にかかる費用となる。昨今のゲーム制作や、スマホゲーならこの後に、「運営」というフェーズが発生してお客さんの動向に応じたバージョンアップやサーバーの拡大、縮小などにともなうプログラム修正などが発生する。

コンシューマーゲームにおいては概ねBD-ROMに焼きこまれたゲームのバグ修正とか、新規DLCの開発などが
これにあたるがスマホに比べると規模は違えども、割合は小さい。少なくともこの360万円という金額はどう考えてもかかる。自分で会社を起こして社員を雇えば必ずかかる費用なのである。

そもそも、なんで人を雇うと60万円なのか?細かい話はまた別の機会に書こうと思うが、少なくとも「他の会社なら60万円を稼ぐことのできる人材」にあたるからなのである。ゲームプログラマや、ゲームグラフィッカや、ゲームプランナーはよそから仕事をもらって仕事をすれば1人当たり60万円で計上できる相場がある。

もっとも人件費の60万円は60万円かかるから60万円という相場があるわけで、その会社なりの家賃や電気代や開発以外に消費する人件費(営業や経理や総務など)を考慮するともっとかかる場合もある。たとえば1ヶ月に1000万円の利益を出す会社の従業員が10人で構成されていたら1人あたり100万円稼ぐわけなんで、これを60万円で貸し出すのは損をする。そんな会社にプログラマを貸し出してもらおうとすると人月100万円という値段がつくわけだから、それを下回ると自分の会社の仕事をやっていたほうがマシである。

バンナムさんとかスクエニさんとかはそもそも人を貸し出すようなセコい商売はしないが、したとしてもそこの人材は高くつくはずだ。

逆に自宅を作業場所にして社長一人でプログラムを書いているゲーム会社にかかる経費は普段の生活費と変わらない。大きく見積もっても30万円程度だろう。そこは勘違いをしてはいけない。つまり原価30万円のものを相場に合わせて「60万円です!」って言い切ると「高っ」って思われて敬遠されるし、厚かましい。

プログラマやグラフィッカはともかく、社長という人はどのように計上すればいいんだろうか?
会社をつくってわかったが、プランナーや、プログラマー、グラフィッカというのは労働者である。
社長というのは経営者で便宜上労働をしてはいけないらしい。たとえば工場でおばさんと一緒にパンを袋に入れる仕事をしていて給与の振り込みができなかった、とかいう労働にかまけて給与の支払義務を怠るのが問題あるのだと思って、社員にはそう説明してきた。なので社長という人は経営をすることが仕事になるらしい。

この経営をする人のコストは、経営をしていることで消費される。もっというと経営をしていなくても消費される。
つまりいてもいなくてもいいけど報酬だけはちゃんと払って、税金と各種健康保険の支払いなどを滞り無く勧める義務と責任を果たしてね!という存在なのである。義務と責任さえ果たしておけば、まねきねこでもできるのである。

オバキューの場合はどうしたか?

実際には僕がプログラムをするので代表をお嫁さんに任せた。
さっき、まねきねこにもできるといったけど、あれはウソだ。お嫁さんの忙しさを目の当たりにした僕がそのままいうと、やったこともない経理をするために、簿記3級を取りに行ったり、市がやってる無料の会計士さんに会える日になんども足を運んだりしながら税金のことを学んでいた。会社で毎月3万円ほどを払えば会計士さんなり税理士さんがついてくれるので、お金がある人は、お嫁さんに負担をかけることはオススメしない。色々大変だ。

僕たちはこの3万円が大金だったこと、1年間で36万円もすることを考えるとボロい中古車なら1台変えてしまうこと、100円ずしなら年間3600皿も食べられることから、自分でやることを採択した。

あと会社の登記などの手続きも必要である。これらは最初だけだけど、だいたい20~25万円くらいかかる。
絶対に必要な登記費用だけでも15万円、その他、安い会社専用のハンコを作ったり諸費用に費やすのが5万程度かかると思っておけばいい。これも実は30万円くらいだせば全部やってくれるサービスも有る。
書面に必要なことを書くだけでハンコもセットで送ってくれるので便利だ。これは「くじらソフト」を立ち上げるときに使ったので間違いない。探せばすぐに出てくるので特に明記しないが「会社設立」とかでググってみてほしい。

僕たちは全部自力で大変だったけど、ものすごく色々な知識は身についたし、お嫁さんと苦楽をともにするのは僕は楽しかった。お嫁さんは緊張と未知の知識を得るのにだいぶ苦労したようで「もうしたくない」といってた。
本当に苦労をかけて申し訳ないが、くじらソフト時代に、さらにもう1つ会社を立ち上げる必要がでてきてまた苦労をかけてしまったが。

話を元に戻そう。
1ヶ月に60万円稼ぐ、となるとそれなりに経費がかさんでいて、それで損も得もしない金額が60万円というのが相場なので僕が「オバキューでっす!さっきたちあげましたけど60万円です、借家でやってます」となると、それはそれで厚かましいし、なにか問題があった時に、立ち上がったばっかりの会社にはなんの保証もできない。もし、僕が病気で倒れた時のバックアップが嫁とまねきねこしかいない会社と、100人規模の会社でバックアップが99人いる会社で、どっちに60万円払うか問われたら、前者を選ぶ人はいない。

なので僕は以前属していたシステムクラスタを訪ねて、僕が倒れた時の保証を月5万円で請け負うことにしてもらった。つまり、他所の会社から60万円で仕事を請け負い、5万円を保証料としてクラスタにとってもらい、僕は55万円を受け取って、よその会社にシステムクラスタから「出向」という形で事実上の派遣をしてもらうことができるようになった。

仲介手数料が5万円というのは安い。僕が少なくとも1年うまく働けてやっと1ヶ月分(=60万円)たまる金額なので、僕が倒れた時に1ヶ月だけ保証が可能な金額である。それ以外はリスクでしかない。システムクラスタとは長い付き合いなので、そこのリスクを排除して考えてくれた、いわば祝儀みたいなもので送り出してくれたことになる。

同じ条件で、古い知り合いと2人でシステムクラスタを通じて関東にある(株)ワークスという100人規模のゲーム会社に2人で出向に行くことにした。2人で同じ目標である「コンシューマゲームを自社ブランドで出す」という、目標を決めてかかることができたのが幸いだった。自分の取り分は変わらないが、会社の貯金が増える速さが2倍になる。

給与は総額35万円で設定すれば、税金、社保その他を引かれて、手取り28万くらいになる。
会社が払う総額としては、社保の半額を負担する必要があるので、結局1人あたり40万円くらいの出費となる。つまり前述した55万円のうち15万円は会社に貯金できる。2人だと30万円だ。これを1年繰り返せば、360万円たまる。ただし、ここに法人税という税金がかかってくるのでこの利益の実に40%程度を持っていかれることを覚悟しておいてほしい。

つまり144万円ほどが法人税の対象になる。法人税とは会社用の所得税みたいなもので利益に応じて料率が変わる税金である。上限で40%くらいなので実際にはもう少しインパクトは弱いが半分近くが国に持っていかれるのである。まあ、でも、これは憂いてもしょうがない。日本で仕事をする以上、この治安で、この市場で、この豊かさを享受するならやむを得ない。しかし、国がセーフティネットや、中小企業支援で捻出している費用を不正受給している人たちのことを初めて本気で憎らしく思ったのもこの納税額を知った瞬間だった。

ゲームを創るために1000万程度を貯金しようと思うとこれを最低でも2年半は続ける必要がありそうだし、実際これを3年続けてみた経緯と結果をおって報告していこうと思います。

ガンヴァレルゲン

「厨購横浜ゼロノス」は、2015年末に株式会社オバキュー(仮)から発売される
2Dのロボットアクションゲームである。

ゼロノス自体は、1990年に発売されたメガドライブのロボアクションで
この続編が「厨購横浜ヴァレルゲン」として1994年に発売されていた。

僕は、このヴァレルゲンが本当に好きで好きでたまらなかった。
このヴァレルゲンとの出会いはホテルに設置されているスーパーファミコンでゲームが5種からセレクトできるものの1つで、このゲームのオープニングと近未来感、ロボットの挙動と、醸しだす演出に今までこのゲームを見逃していた愚を悔いた。

時は流れ2004年。そのゲームはリメイクされるという。
シューティングゲーム業界の雄「彩京」がリメイクするという、発売元はクロノスーツ。聞いたことないが、彩京が作るなら安心である。しかし、反対に僕の気持ちは荒れていた。

「このマイナーなヴァレルゲンをいつか大舞台に引き出してリメイクしよう!」と思ってプログラマになったのに誰かに先を越されていたこの事実!正直大ショックだった。片思いの子に振られた気持ちとまったく同じだった。でも考えて見れば見るほど当然でもあった。

「こんなにできの良い、器量よしのヴァレルゲンさんをみんなが黙って放って置くわけがない」
自分がADVゲーム開発なんかでちんたら腕を磨いている間に出し抜かれたマヌケさを心底恨んだ。

そして、今の嫁になる時の彼女に誕生日プレゼントとして買ってもらうことにした。
なぜなら、SFC版のヴァレルゲンは5年ほど前に付き合った別の娘に買ってもらっていたもので、それを後生大事にすることは、今の彼女に申し訳ない気持ちがあったから、その宝物をPS2版に変えようと思っていた。

くったくのない笑顔で誕生日用にラッピングされたPS2版の「それ」をさっそくDVDドライブに突っ込む「あの彩京が!」「あのヴァレルゲンが!」「2Dで!」「どんな魔法を見せてくれるんだーーー!」

「・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


正直自分でもよくわからない衝撃に包み込まれた。

「どうしてこうなったんだ?」
「あれ?オープニングは?」
「このふがいないゼロ面はなに?」
「あのストライカーズの彩京?ですよね・・・?」

色んな思いが交錯する。そして「面白くない、カッコ悪い」と思う自分の感性が信じられなくて
2chの該当掲示板を開いてみた。

「やはり・・」

間違ってなかった。ヴァレルゲンのファンは荒れていた。大いに荒れていた。
しかし、僕はこのヴァレルゲンの悪口をいうことはできなかった。

なぜなら嫁が全く悪気なく(しかも僕が頼んで)プレゼントしてくれたものだからだ。
この「アレルゲソ」は認める訳にはいかない。しかし彼女がくれたプレゼントを冒涜するわけにも
いかない。この葛藤に2時間苦しんだ後、感謝の気持ちを込めてもう一度お礼を言った後、
プレゼントを買い取ることにした。

というより、プレゼントをなかったコトにして、お使いに行ってもらったことにした。

そして、もう一度2chを見る。すごい。すごい罵倒だ。
DVDを割った画像も出てくる。だんだん過激になってくるヴァレルゲン祭りの中で、私自身も
「お前たちはもう2度とゲームを作らないでください」というシンプルなファンレターを書いた。

後にこれを作った会社の社長と話をする機会があったが「あの時は本当に怖かった」らしい。
もともとがゲーム開発よりの人ではないので真に受けすぎなんだと思うが「夜道に気をつけろ」とか
「襲撃してやる」っていう当時でいうと少しやんちゃなファンレター、今で言う殺害予告に本当に恐れていたらしい。

そんななか「D.Jそぅび」とか「D.J.PIUQE」なる人物が「アレンジとはこうあるべき!」といった
楽曲のアレンジを2chに投下しだした。これは、初めて聞く「ヴァレルゲン」のアレンジである。
びっくりするくらいにかっこよかった。

そうだよ、これが聞きたかったんだよ!

感動した。PS2版に少しでも、この情熱があれば。。。
僕は、そのBGMをバックに闘う簡単なシューティングを作って、2chに投下してみた。
評判が良かった。PS2版で乾ききっていた喉はどんなものでも受け入れてくれる準備が整っていたのだと思う。

その後は、加速度的に進行した。「ヴァレルゲンⅡ」を作ることを目指して名付けた「VIIプロジェクト」として、マップの当たり判定、重力、ローラーダッシュや、背景仮絵なんかを追加してどんどん2chに投下した。

そんな折「ここはヴァレルゲンだけのスレッドじゃない」「ゼロノスのスレッドでもあるからヴァレルゲン制作は別でやってくれ」という提案が出て別スレッドに移動。当時からゼロノス派のやや閉鎖的というか、少々ネガティブな思考とは対立する趣もあり実は2015年までこの重圧には苦しむことになる。

しかしこの重圧から逃れた「VII」はPS2版で疲弊していた2ch住民とともに盛り上がってくれて、「銃装機兵ガンヴァレルゲン」として存続し、いわゆる2chの神が僕が仮絵として作ったものを今で言うMOD感覚で自機の絵や、敵の絵や、マップ、当たり判定、効果音などをどんどんいいものに作り変えて投下してくれた。

たくさんの2ch住人がチェッカーとしてプレイしてくれるおかげでバグ取りの楽しさも知った。
僕自信も神扱いされて気分よく超ハイテンションで、会社もやめて、ついに最終面まで出来上がった。

僕はこの時、システムクラスタという小さなゲームデベロッパーでプログラマをしていた。
アーケード用6ボタンの対戦格闘ゲームのドリームキャストへの移植とか、NESなんとかちゃんねるっていう会社のつくるアドベンチャーゲームの一部を担うプロのプログラマだったけど、自分の設計で周りの人に素材を描いてもらう責任感というか、うまくいった時の疾走感というか、この感覚が面白くてVIIはやめられなかった。

そしてその目に見えないつながりというか、そのつながりの先にいるのは間違いなく別のプロで会社という枠を超えて「ガンヴァレルゲン」でコラボする豪華さによだれが出た。

ファンレターも届いた。その人の名前は「五十嵐xxx」って書いてあった。
元ヴァレルゲンの開発者らしい。スタッフロールを穴の開くほど見てコピーしてきた僕が知らないスタッフ名なので多分偽名だ。今のPS2の惨状も知り、かつ元開発者の意思を受け継いで今盛り上がってくれることを嬉しく思うと書いてあった。

正直、これは嬉しかった。クローンゲームというのは、オリジナルに対する自分勝手な解釈を含むことも多々あり
ある意味冒涜することにもなりかねない。そこを(もしかしたら違うのかもしれないけど)元開発者と名乗る人が
僕のプロジェクトを気持ち的に後押ししてくれていることに勇気が出た。あとは、この版権を持つ人達が怖いところであるが、色々あって2015年現在、ヴァレルゲンの版権を持つ人たちと会うことができ、身勝手な行動を正式に謝罪した結果

「自分たちで作れないものを本当に好きな人達によるファンメイドで盛り上げていってもらえる、これからの作り方に期待している」

と、そういう趣旨の応援をもらうことができた。なにをかくそうこれを言ってくれたのはあの元クロノスーツの社長である、殺害予告メールに恐れていた、PS2版の開発元のあの社長である。あの社長が「ガンヴァレルゲン」を認めてくれた上に、「ゼロノス」のPS4への移植まで許可を出してくれた。PS4への移植については極めてビジネスライクな側面もあるが通常なら許可をだせなかった、というのをだいぶ後になってから聞いた。

なぜならあのソフトのファンによる凶行が怖いので、下手な移植をすると僕自身が怪我をすることを案じているようで、僕がVIIの作者だから(下手な移植はないかもしれない、と)許可を出してくれたらしい。それを後押ししてくれたのが、同社に在籍するSさんなんだけれどもSさん自身が「五十嵐さん」だったのかもしれない。

まあだからといって調子に乗るわけにも行かないが、そういう理由で今の「VII ガンヴァレルゲン」は、アンダーグラウンドだった存在がひょんなことから公式に黙認されたソフトになっている、

この「ガンヴァレルゲン」は今にして思えば大チャンスだった。PS2版を彩京が創るのと僕が創る。この圧倒的な力量差は、たとえが古いがボブサップと北尾光司くらい違う、いや北尾の方 がすごいか。そのボブサップがリングに上った後に滑って骨折したのである。観衆はすでに東京ドームに集まっている。その衆目が監視する中で動き始めた VIIには本当にヴァレルゲンが好きな人たちが集まっていて、貴重な意見が泉のように溢れ出てくる。ヴァレルゲンを創るには、こうあるべきだ、PS2版は ここがダメだった!と言った具合に、僕が将来やりたかったことの注意点が教科書のように情報として湯水のように溢れ出てくるのである。

その後、時の2chの神の一人が僕の立ち上げる会社「オバキュー」で作った「偽装傭兵ガンラウンド」をPSPで発売するのに協力してくれたり、この時のノウハウが、僕の30代~40代前半のエンジンになって「くじらソフト」を立ち上げることになったりと、とてもめまぐるしい7年が始まった。

※にたようなプロジェクトがあったので貼っておきます


クジラソフト代表取締役解任のご挨拶

2015年11月 代表取締役 富雄有希

代表取締役解任のご挨拶。

平素は架空の弊社「くじらソフト」をご愛顧賜り誠にありがとうございました。

あと1ヶ月で訪れるクリスマスにはたくさんのゲームソフトが発売されて、プレイステーション4も安くなり、買いたい人も売りたい人も大忙しのまさに師走がやってまいりますが、ゲーム開発自体はこのタイミングになると、もうだいぶ落ち着いております。

コンシューマーゲーム機でクリスマスにゲームソフトを売るためには、10月中に血と汗と涙の結晶であるゲームソフトをプラットフォーマー(※)である任天堂さんやSCEさんに規格に適合しているか、チェックをしてもらい
11月の初旬くらいに合格をもらって「開発」を完了している必要がございます。ここでできるのが「マスター版のROM」

合格してからすぐに「マスター版のROM」を元にDISCをプレス(※)してもらってパッケージやマニュアルを印刷したり、アッセンブル(※)して、シュリンク包装(※)をして製品を作るいわゆる「製造」の工程に入ります。これがだいたい1ヶ月位かかるので10月にマスターアップ、11月に製造、12月に販売、というのが順当な流れとなります。

ですので11月というのは、開発にとってはマスター版も提出が終わって、あとはクリスマス前のファミ通さんでの評価を楽しみにしながら代休を消化したり、バージョンアップ版の作成をしたり、次のお仕事のための準備や研究を始めたりと様々ですが、一番ゆっくりと時が流れて楽しい時かもしれません。

私は8月からすい臓を患いつつ入院を薬でだましだまし2ヶ月引っ張りながらなんとか11月まできたこともございまして、とりあえず2週間の入院を始めました。

今回はコンシューマ機で初の自社パブリッシングソフト「厨購・横浜ゼロノス」を開発、販売ということもあり、新参パブリッシャーとしては、ここからが本番で出来上がったゲームソフトを「売る」お仕事をいたします。いわゆるプロデューサーのお仕事の本番となってまいります。

小さいクジラソフトでは、「売る」こと「宣伝」することに関しては、誰がやっても未経験となるので、やや頼りないところはございますが信用のおける副社長にプロデューサーとして兼任してもらうことにいたしました。

しかしマスターアップ1週間目の今日、2015年の冬、これを入院中のベッドの上で書いている私はなぜか職を失っており、クジラソフトの社長が運送業だか不動産屋だかわからんおっさんになり、副社長が東京支社長という名前で嬉しそうにぶら下がっている状況に混乱しております。

私にもできたコンシューマー機でのゲーム作りとパッケ版の販売。そして会社経営とゲーム作りの信念、お金と労働、血と涙、会社の本音と社員へのウソ、年末発売の「厨購・横浜ゼロノス」裏話など、探しても見つからなかった情報をこのたった4年の激しかった仕事を思い出しながら書き連ねてつつ整理していこうと思います。

くじらソフトをご愛顧賜り誠にありがとうございました。心から感謝いたします。

飽きたら適当に最近やったゲームのことなどをつらつら書いていると思います。


くじらソフト代表取締役

※くじらソフトは架空の会社です

(※)プラットフォーマー・・ソフトを販売する基盤となる市場を提供してくれるメーカー、プレステ4を展開するSCEとか、3DSを展開する任天堂とか
(※)プレス・・・大量のCD-ROMを作るときは焼かない。プレスという後方でたいてい外国で大量生産する
(※)アッセンブル・・・箱を組み立てて中に説明書を入れたりする作業、おばちゃんたちがやってる
(※)シュリンク包装・・・最後にビニール包装を行う処理で機械がやってる
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